e-BOXERについて調べてみた(1)
2025/07/21
e-BOXERについて調べてみよう
  • e-BOXERはSUBARUのハイブリッドシステムのことですが、2024/12からe-BOXERにストロングハイブリッドが加わりました。S:HEVです。ちょっと気になったのでSUBARUのe-BOXER全体について調べてみることにしました。


  • このレポートを書いている2025/07現在、日本国内で扱われるSUBARUのe-BOXERは2種類あります
    • マイルドハイブリッド(以後 HEV と表記): 2013年〜
    • ストロングハイブリッド(以後 S:HEV と表記): 2024年〜

  • そして北米になりますが、プラグインハイブリッド(以後 PHEV と表記)が2018年に発表されています。2022年のCrosstrekブランド統合時、PHEVがラインナップに入ると思っていましたが、S:HEVとして改良していた(*1)のでしょう。

  • それではHEV, PHEV, S:HEVを順に見ていきましょう。今回はHEVです。S:HEV ではなく HEV です

HEV: マイルドハイブリッド
  • HEVはモーター1個がアシストに入る構成です。このモーター(MA1)とエンジンがCVTのプライマリープーリーを回します。

  • Figure 1: Hybrid Lineartronic

  • この構成ですが、EV走行切替時にCVTギヤ比を変更する必要があるため、正直「?」と感じるのですが、2013年のスバル技報(*2)を見ると、下記の設計制約があったようです。
    • リニアトロニック(CVT)を流用すること
    • 従来と同じケースに収めること

  • 上記制約でMA1を置く位置が「プライマリープーリー後方に縛られた」ことから、連鎖的に電動オイルポンプ追加でシステムが却って複雑化...当時の開発陣は相当苦労したのではと思います。

  • では動きを見てみましょう。トランスミッション部を図にしてみました。

  • Figure 2: HEVのトランスミッション部(Hybrid Lineartronic)

  • オレンジがドライブシャフトです。アウトプットクラッチを経由してフロント、更にトランスファークラッチを経由してリアドライブシャフトになります。アウトプットクラッチはHEV独自部品です。

  • フォワードクラッチ後段にあるプラネタリーギアは前進/後退切替用です。フォワードクラッチOFFでプラネタリーキャリア(リバースブレーキ)を固定すると、サンギア逆回転で後退します。

  • 各走行モードにおける制御ですが、フォワード/アウトプットクラッチのON/OFFとモーターの回転(力行)/発電(回生)制御で説明できます。尚、トランスファークラッチは後輪駆動制御のため、下記テーブルとは関係ありません。

  • Table 1: 走行モードとクラッチ制御
    走行モードフォワード
    クラッチ
    アウトプット
    クラッチ
    エンジンモーター
    エンジンOFF:停車OFFOFF 停止停止
    エンジンON:停車(*3)ONOFF 回転トルク無(空転)/負トルク(回生)
    EV走行:加速OFFON 停止トルク無(空転)/正トルク(力行)
    EV走行:減速OFFON 停止トルク無(空転)/負トルク(回生)
    エンジン主体走行:加速ONON 回転トルク無(空転)/正トルク(力行)
    エンジン主体走行:減速ONON 回転トルク無(空転)/負トルク(回生)

  • こうやって出力のフローを見るだけなら良いのですが、ここでCVTプーリーの油圧制御はどこでやっているのか考えると、少し難しくなってきます...。

HEV: 2個のオイルポンプ駆動
  • EV走行時にCVTの制御が必要なため、従来のエンジンで回す機械式オイルポンプ以外に電気式オイルポンプも搭載しています。この電気式オイルポンプの電力は、モーター駆動用の高電圧バッテリからインバータ(3相交流化)経由で供給されています。下記図の下側、EEOPインバータとFオイルポンプ間の接続です。

  • ※クリックで原寸大
    Figure 3: 電源マネジメントシステム (スバル技報2013,p36より)

  • さて、この電気式オイルポンプですが、高電圧バッテリを消費するという意味で少々もったいないと感じるところがあります。なるべくモーター駆動に回して欲しいですよね。

  • そのため従来エンジンで回す機械式オイルポンプが2way-drive...エンジンとCVTプライマリープーリーの両方で回るようになっています。ワンウェイクラッチを経由して両方で回る仕掛けです。

  • Figure 4: オイルポンプの2way-drive (スバル技報2013,p28より)

  • つまりモーター及び車軸回転が低く機械式オイルポンプの駆動力が足りない場合は電気式オイルポンプで油圧を確保し、モーター回転及び速度Upによってプライマリープーリーの回転数が上がれば機械式オイルポンプで油圧を確保して、電気式オイルポンプをOFFするという仕組みです。

  • 切替制御がすごく難しそうです...

HEV: 12Vバッテリも2個搭載
  • HEVの特徴としてもう一つ注目なのが12Vバッテリを2個搭載している点です。高電圧バッテリがあれば事足りるのではという素人考えを打ち抜いてきます。

  • この12Vバッテリー2個搭載の理由は推測ですが、下記と考えています。
    • 本当は高電圧バッテリから確保したかったが、荷室スペース制約でエンジンルームへ分離せざるを得なかった。
    • Q85鉛畜電池でアイドリングストップ+α以上の再始動回数をカバーできるか評価が難しかった。

  • 1個の12Vバッテリ(N55)はエンジン再始動専用です。最初のエンジン始動ではなくアイドリング又はEV走行からのエンジン再始動にのみ使用されます。それ以外...従来の12Vバッテリが見る領域については、もう一つの12Vバッテリ(補機バッテリ)を使用します。アイドリングストップからの始動がお役御免になったので、Q-85ではなく、D-23を使用しています。

  • 2個の12Vバッテリを充電する仕組みですが、これはMA1を含めた2個のモーターを使用します。ですがモードが別れているため複雑です。

  • ※クリックで原寸大
    Figure 5: 2種類の電源モード(スバル技報2013,p37より)

  • 発電を行うのはモーター(MA1)とISGで、それぞれが2個のバッテリーを充電対象にします。
    • 1電源モード: 再始動バッテリ満充電
      • バッテリーリレーをONして、ISGは補機バッテリーを充電する
      • モーターは高電圧バッテリーを充電する
    • 2電源モード: 高電圧バッテリ満充電
      • バッテリーリレーをOFFして、ISGは再始動バッテリーを充電する
      • モーターはコンバータを経由して補機バッテリーを充電する

  • しかしこれは...補機バッテリと再始動バッテリーの両方が放電しているとハマるのでは。ブースターケーブルで補機バッテリを救命しても、再始動バッテリにISG発電電流を食われると「また止まって」しまいます。補機バッテリの充電優先度を上げるために、バッテリーリレーがもう一つ必要ではないか(*4)と愚考します。

  • HEVでは、特に補機バッテリの冬前状態チェックが必須ということですね。

次回はPHEV
  • 今回は従来タイプのマイルドハイブリッドe-BOXERを見てきました。時間と設計制約を満たすために、ものすごく大変な開発だったのではと想像しています。

  • 次回は2018年発表のPHEVを扱います。2024年のS:HEVはPHEVをベースとしており、はっきり言うとTHS IIを理解しようという話になります。しかし横置きエンジン向けTHS IIを縦置きにするのもかなり大変だったでしょうね。
Notes
  • 下手するとHEVと自軍同士で撃ち合っちゃいますから、グレードを分ける必要があったのかと。
  • 7章 ハイブリッド・リニアトロニックの開発, 2.1 レイアウト, Page 60
  • ギアをDレンジに入れる条件あり。
  • レアケース過ぎるので故意に切っている可能性があります。
2025/07/21: 初版
2025/07/25: Table1に空転制御を入れ込んで整理
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