このレポートについて
- このレポートはTV放送デジタル移行の際に気になる点をまとめたものです。2006年のレポートで既に10年以上経過していますが、当時の認識を掘り起こすため旧HPから引っ張り出してきました。「現在の」という言葉は2006年当時を意味しているのでご注意下さい。
何の話?
- 2011年のアナログ波停止に向け、放送電波のデジタル移行が進んでいます。要はUHFで受ければ良いのかなぁと考えていたのですが、よく調べてみるとちょっと違うことがわかりました。意外とややこしいのです。
- 特に「電波障害対策」が絡むと、かなり面倒なことになります。 集合住宅...マンションだと更にゴタゴタする場合も。今回は、その背景について説明してみたいと思います。
現在のテレビ電波の種類
- まず、デジタル云々の話を始める前に、現在のテレビ電波の種類を見ることにしましょう。 表1にアンテナで受ける際の周波数...電波の周波数を示します。
表1.現在のTV電波の種類 (アンテナ受信時)
周波数範囲 |
記号 |
実使用範囲 |
用途 |
30〜300MHz |
VHF |
Low:70〜108MHz |
FMラジオ放送, テレビ放送(1ch〜3ch) |
High:170〜222MHz |
テレビ放送(4ch〜12ch) |
300MHz〜3GHz |
UHF |
470〜770MHz |
テレビ放送(13ch〜62ch) |
3GHz〜30GHz |
SHF |
11.77〜11.85GHz |
アナログBS放送 |
12.25〜12.75GHz (水平/垂直偏波) |
CS放送(110度ではありません) |
- アンテナで信号を受けた後、ケーブル(アンテナ線)で各受信機器に信号を配るわけですが、 SHF帯のように高い周波数はそのまま伝播できないので、 アンテナ内のコンバータで周波数を下げています。(*1)
- 更にCS放送のように垂直/水平偏波がある場合も、 そのままアンテナ線に入れることはできないので、 それぞれの偏波をやはりアンテナ内コンバータで別の周波数帯域に変えています。
- するとアンテナ線内...実際のチューナが取り込む周波数は、アンテナの受信周波数とは当然異なっています。 表2にアンテナ線内での信号帯域を示します。
表2.現在のTV電波の種類 (アンテナ線内)
周波数範囲 |
用途 |
70〜108MHz |
FMラジオ放送, テレビ放送(1ch〜3ch) |
170〜222MHz |
テレビ放送(4ch〜12ch) |
470〜770MHz |
テレビ放送(13ch〜62ch) |
1112〜1190MHz |
アナログBS放送 |
1050〜1415MHz
|
CS放送(垂直偏波分, 110度ではありません) |
1437〜2072MHz
|
CS放送(水平偏波分, 110度ではありません) |
- さて、表2を見るとわかるように、 アンテナ線内で帯域としてBS/CS(110度ではない)は完全に重なります。 つまり普通にはアナログBSとCSを混合し、同一のアンテナ線で配ることはできません。(*2)
- 言葉や表だとわかりにくいので、図にまとめてみました。 表2のアンテナ線内での周波数帯域を視覚的に表現したものが図1です。 BSとCSが完全に重なっていること、 そしてVHF間で「隙間」のあることがわかると思います。

図1.アンテナ線内での帯域分布
電波障害とCATV
- まだデジタルの話に進みません。現状のテレビ用信号にはCATV(ケーブルテレビ)という要素があります。 CATVは多チャンネルサービスを受けたい人が自発的に受信設備を整えて視聴する場合が普通ですが、受信障害対策で自治体が整備しているケース等もあります。
- CATVのアンテナ線内周波数帯域は、一般にVHFの隙間と、VHF/UHF間を使用します。 またCATVによるインターネットを含む双方向通信サービスは、VHFの更に低い帯域を使用します。 CATVが混合したときのVHF/UHF帯域を図2に示します。

図2.CATV混合の周波数帯域
- VHF4ch〜12chの帯域とUHF帯域の間、CATV23ch〜63chが使用している帯域はスーパーハイバンドと呼ばれます。受信障害対策の対象となる建屋では、信号線設備がこのスーパーハイバンド域までしか対応していないケースが多くあります。
- そんなことが起きる理由ですが、 本来であればUHFで受信する放送も、CATVの多チャンネルサービスに組み込んで流せるからです。
- 従ってVHFのLow側からCATVスーパーハイバンドまでカバーしていれば、自治体から依頼されている条件はクリアできます。 スーパーハイバンドは少しUHFの要素に入りますが、VHF+α程度の信号が伝播できれば...実質的にVHF帯だけで問題ない訳です。しかし、これはマンション等集合住宅のデジタル移行時に大きな問題の種となります。(この話は次回以降で詳しく)
今回のまとめ
- VHF, UHF, CATV, BS, CS(110度ではない)の従来アナログ放送について周波数帯域を把握しました。
- 受信障害対策が入った建屋ではVHF帯(スーパーハイバンド)までしかカバーされない信号線設備であるケースも多いです。
- 次回はデジタル放送波の帯域がどのように重なるかと、比較的工事が自由な一軒家等のアンテナ/信号線整備について話をします。本題は「集合住宅での混乱」なのですが、次回までは予備知識と思って下さい。
|